ベトナムの大胆な行政改革:外国人投資家にとっての意味

ベトナムは現在、近代史上最も野心的な行政改革のひとつを進めています。2025年初頭、政府は行政機構を合理化し、非効率を削減し、経済ガバナンスを強化するという抜本的な計画を発表しました。これは、2045年までに高所得国となることを目指した取り組みの一環です。
本記事では、ベトナムの行政再編戦略を詳しく見ていきます。さらに、こうした動きが国境を越えた投資家にとって、どのような新たな機会と重要な課題をもたらすのかについても考察します。
ベトナムの再編で何が変わるのか、そしてそれはなぜ重要なのか?
2025年4月12日、ベトナム共産党中央委員会は第13期第11回中央委員会会議を経て、「決議第60-NQ/TW」を発表しました。これは、ベトナムの長期的なガバナンス改革戦略における重要な一歩となるものです。
決議第60-NQ/TWとは?
この決議は、統治の効率性を向上させ、官僚的な重複を削減し、行政機構を社会経済的な発展目標とより適切に整合させる必要性に基づいて、国の行政システムを再編するための包括的な計画を示しています。党中央委員会は、以下のような変革的な措置について強い合意に達しました。
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- ベトナムは、地方政府制度を二層構造へと移行します。その構成は以下の通りです:
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- 省レベル:省および中央直轄市を含む
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- コミューンレベル:省や市に属するコミューン、坊(ワード)、および特別区域を含む
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- ベトナムは、地方政府制度を二層構造へと移行します。その構成は以下の通りです:
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- 統合後、現在63ある省レベルの行政単位は、28の省と6つの中央直轄市を合わせた計34に削減されます。各行政単位はそれぞれ固有の名称を保持し、公式な提案および計画で定められた原則に基づいて、政治・行政の中心地が指定されます。
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- 国家議会による憲法および関連法の改正を経て、郡レベルの行政単位は廃止されます。
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- コミューンレベルの行政単位は統合され、全国で現在の数を60〜70%削減することを目指しています。これは、行政の簡素化と実効性の向上を目的としたものです。
この計画は、単に行政区画を変更するだけではなく、ベトナムの行政モデル全体を再定義するものです。郡レベルの廃止とコミューン単位の削減によって、省政府が市民により近い存在となり、意思決定の効率化が図られます。また、この改革により約10万人の公務員職が削減され、よりスリムで効率的な国家体制の構築を目指しています。内務大臣ファム・ティ・タイン・チャー氏は、コミューンレベルの行政単位の再編を2025年6月30日までに完了し、同年7月1日から新体制での運用を開始すると述べています。さらに、省レベルの行政単位の統合については2025年8月30日までに完了させ、9月1日から新たな体制での運用を開始することを目指して準備が進められています。
ベトナムの行政再編:投資家にとっての意味とは?
ベトナムの大規模な行政改革は、単なる政治的な変化にとどまらず、国内外の投資家にとっても大きな影響をもたらすものです。
機会
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- ビジネスにとっての行政手続きの簡素化:
行政層の削減により、規制手続きが簡素化され、企業は許認可や承認を迅速に取得できるようになります。権限の所在が明確になり、官僚的な障壁が減ることで、プロジェクトの立ち上げが加速し、業務の摩擦や行政上の重複も解消されます。 これまで、異なる省にまたがる2つのコミューンに関わるプロジェクトは、それぞれで重複した承認手続きが必要でしたが、省の統合により、1つの承認プロセスだけで済むようになり、時間とコストの削減が可能になります。投資家にとっては、権限の所在が明確になることで、地域の規制を把握しやすくなり、プロジェクトの開始がより迅速かつスムーズになると期待されます。
- ビジネスにとっての行政手続きの簡素化:
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新たな経済拠点の出現:
省の統合により、より広域で競争力の高い経済ゾーンが形成され、投資魅力や発展可能性が高まります。発展が遅れていた地域は、先進地域のインフラや資本の恩恵を受けることができ、統合された省は、人口規模と経済規模の拡大により新たな成長エンジンとなる可能性があります。代表的な例としては、ホーチミン市、ビンズオン省、バリア=ブンタウ省を統合した**「スーパーシティ」構想があり、これは国のGDPの約24%(約1,143億米ドル)を占める**経済圏を形成します。この新たな都市圏は、統合された経済規模、旺盛な外国直接投資(FDI)、進行中のインフラ整備により、大規模な都市拡張に理想的な立地となることが期待されています。加えて、都市計画やゾーニングの見直しも予定されており、住宅・工業・商業への大規模投資に適した地域として注目されています。投資家にとっては、広域市場へのアクセス、多様な労働力、強化されたサプライチェーンを活用できる大きな機会となるでしょう。
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統合前後におけるベトナムの経済規模が最大の地域トップ10一覧:
統合前(単位:10億ベトナムドン) | 順位 | 統合後(単位:10億ベトナムドン) | ||
経済規模 | 地域 | 地域 | 経済規模 | |
1.778.269 | Ho Chi Minh City | #1 | Ho Chi Minh City | 2.707.805 |
1.426.000 | Ha Noi | #2 | Ha Noi | 1.426.000 |
520.205 | Binh Duong | #3 | Hai Phong | 658.381 |
497.715 | Dong Nai | #4 | Dong Nai | 613.072 |
445.995 | Hai Phong | #5 | Bac Ninh | 439.767 |
409.331 | Ba Ria – Vung Tau | #6 | Phu Tho | 364.516 |
347.500 | Quang Ninh | #7 | Quang Ninh | 347.500 |
318.903 | Thanh Hoa | #8 | Lam Dong | 319.871 |
232.767 | Bac Ninh | #9 | Thanh Hoa | 318.903 |
216.944 | Nghe An | #10 | Tay Ninh | 312.466 |
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資源配分の最適化と計画の一元化:
ベトナムはこれまで、行政単位の細分化によって資源が分散し、大規模な投資が困難という課題を抱えていました。省の統合により、土地に余裕はあるが財政に乏しい地域と、資金力はあるが土地が限られている地域など、互いの強みを補完し合えるようになり、資本効率や資源活用の向上が期待されます。また、再編によって交通、都市開発、工業団地などに関する計画を広域で一元化でき、従来の断片的な取り組みから脱却することが可能になります。これにより、道路、橋梁、廃棄物処理施設など、複数の省をまたぐインフラ整備も効率的に実行できるようになります。国家としても、戦略的なインフラプロジェクトに対して、より的確な資源配分と予算投入ができるようになり、道路、橋梁、公共インフラなどの整備が加速します。投資家にとっては、インフラが整備され、接続性が高く、経済的にも持続可能な地域が形成されることで、長期的な国家開発目標に合致した安定的な投資環境が整うことになります。
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インフラ投資需要の加速:
今回の行政再編により、新たに統合された地域では、交通、公共設備、物流、デジタルインフラの高度化に対する需要が大幅に高まると見込まれています。これに伴い、公共支出の増加や省をまたいだ連携の強化が進み、特にインフラ依存度の高い分野において、官民連携(PPP)を通じた投資機会が拡大することになります。公共サービスの近代化や地域間の接続性向上を目的としたインフラ整備が加速することで、投資家にとっては魅力的なプロジェクトや新規市場への参入機会が広がることが期待されます。
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課題
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行政・法制度上の混乱:
ベトナムにおける今回の行政再編(省レベルからコミューンレベルまで)は、統治体制および規制プロセスにおいて短期的に大きな不安定さをもたらす可能性があります。地方の部局や官僚機構が再編される中で、権限の重複、管轄の不明確さ、調整不足といった課題が生じる恐れがあります。投資家にとっては、承認の遅延、問い合わせ先の不明瞭化、意思決定の停滞といった影響がプロジェクト進行に及ぶ可能性があります。さらに、税務コード、営業許可証、土地使用証明書などの主要な法的書類を新しい行政区画に合わせて更新する必要が生じる可能性があります。これらの法的手続きの見直しには、コンプライアンスコストの増加や業務遅延、さらには混乱のリスクが伴います。特に、複数地域にまたがって事業を展開している投資家にとっては、影響がより深刻になる可能性があります。
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物流およびインフラの混乱:
行政再編により、車両登録番号、貨物許可証、輸送関連書類などの物流の中核要素に対する調整が必要になる可能性があります。これらの更新が迅速かつ一貫して実施されない場合、企業は輸送や配送における混乱に直面する恐れがあります。投資家、特に物流、サプライチェーン、製造業分野の関係者にとっては、貨物移動の遅延、コンプライアンス負担の増加、統合された新地域間でのインフラ整備の不均一性が、業務上の課題やコストの増加を招く可能性があります。
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- 政策の統一の複雑さ:統合後の主要な課題の一つは、新たに統合された省・地域間での現地規制、税制優遇措置、投資政策の統一です。統合前は、各省が投資を誘致するために競合的または優遇的な条件を提供していた可能性がありますが、統合後はこれらの政策を一本化する必要があります。その結果、有利な条件が失われたり、見直されたりする可能性があります。投資家にとっては、一定期間の規制の不確実性に直面することになり、各地方政府が法制度を再編する中で、優遇措置の変更やコンプライアンス要件の変化に備える必要があります。
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- 契約および土地利用に関する不確実性:新たな行政区画や土地利用計画の変更に伴い、既存の土地使用権、用途地域の許可、リース契約などが再検討の対象となる可能性があります。特に統合によって管轄や用途地域の規制が変更された場合、投資家は契約の再交渉を求められることがあります。また、契約条件が新たに発行された指針や土地利用のマスタープランと矛盾する場合、法的紛争のリスクも高まります。こうした不確実性は、長期的な投資計画に影響を及ぼし、不動産、インフラ、製造業分野におけるプロジェクトの展開を遅らせる要因となり得ます。
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